2ペンスの希望

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ズル

本好き芸人“オードリー”若林正恭さんが、懇意な小説家たちと語り合った「文筆系トークバラエティ」本
『ご本,出しときますね?』【ポプラ社2017年4月 刊】がばらつきはあるが拾い物だ。
もとはBSジャパン30分の深夜番組らしい。
角田光代×西加奈子×若林正恭の回。
角田:小説には意外とズルがあるんです。たとえば、ふたりの人間が出会うシーンで、どうしてそのふたりがその場にいて、出会ったのかを、丁寧に、自分が信じられるようなシチュエーションで書かなきゃいけないんだけど、やっぱり「ズルをしちゃおうかな」というときは、パンとぶつからせて。端折るというのかな。
若林:なるほど。俺は、ネタを書くときにズルしてるな。「ズルしない」というのは、そこで   もう一歩踏み込んで、出会う必然性を考えるってことですね。
角田:小説はズルができる
西 :意外とできる。
若林:小説は、突き詰めればキリがないですね。どこまでやるかという問題もあるね。
西 :自分が信じられるということが一番大切かも。こっちが「こんな出会いないやろ」と    思いながら書いたらダメだし。
若林:ズルをして、自分がしんどかったから、もうしないように決めたんですか?
角田:そうです。
    やっぱり、書き終えても書き終えても、ズルをした気がするんですよね。

若林:「もうちょっとここ頑張れた」って思いますよね。完璧や百点はないですもんね。
   西さんはどうですか?

西 :ある。二作目の『さくら』という小説で、主人公のお兄ちゃんが自殺するの。当時は   本気で書いたの。でも、後から「死なせることはなかった」ってずっと考えてたの。   事故に遭って死なせるって、駒やん。登場人物を駒にして、それで家族が団結して。  無駄に死なせたというのがずっと苦しくて。だから『サラバ!』という小説を書いたとき   は、もう絶対に神様の起こしたアクシデントではなくて、髪の毛が薄くなってきたとか、  誰にでも起こることで変化させていこうと誓った。当時『さくら』を「よーし殺しちゃえ」と  いうノリで書いたわけでは決してないんだけど。でも、ズルしたらずっと苦しいから。   ズルをしないで苦しむほうが楽しい。
映画だって同じこと。云われなくとも、ズルは自分が一番よく分かってる