2ペンスの希望

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前田真二郎 『BYT』

大阪中之島 国立国際美術館で『光の布置ー前田真二郎レトロスペクティブー』を見て来た。

1969年生まれ松本俊夫の「直弟子」の実験映像作家だ。メディアアートの作家は正直苦手だ。「意識高い」感が漂ってきて、挑戦的・意欲的なのはわかるが、見る側を楽しませるというより、自身の表現を押し付けてくる「圧」が勝って息苦しく寛げないことが少なくない。独りよがりは、軟弱一般娯楽映画ファンにはハードルが高い。ということで、残念ながら今回の催しも十年以上前に作られた「作品」には、心動かなかった。断片の断続・多重映像・即興アート・日記日録の類いには惹かれなかった。ただ、最後のGプログラムは、面白く観た(視た)。《 BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW 2008-2022 》(FHD-digital / 50分)

1日目 明日撮影する場所とそこに行く理由について話す(録音) 2日目 現地で撮影する 3日目 昨日の出来事について話す(録音)という指示書に基づいて制作する即興映画と定義されている。映像にかぶせて、前日に録音した音声と、翌日の報告が流れる構成だ。50分の映画には、大小9つの短編が収まっている。

厳密・厳格な「条件縛り」を設けることで、作り手個人の私的な体験・日記・日録・備忘録映像が、ズレた時制の音声と相まって、微妙に個人から離れ、浮遊しながらゆっくり「社会化」していく様子が新鮮だった。(上手く伝わったか‥全く覚束ない限り。「映像」を「言葉」で伝えることの難しさ故と、責任逃れ 言い訳しておく。)

頭のいい研究者なら、「事前と事後の差異が、現実の不確かさを露呈・露出する」とか「撮るという行為と見るという行為の間に横たわる距離、そのめくるめく落差」なんて解釈表記するのかもしれない。

いずれにしろ、一人の映像作家が30年ほど掛かって到達したこの『BYT』シリーズはそれなりに刺激的だった。

もともとは、3.11 東日本大震災から生まれた企画らしい。最後に前田真二郎が立ち上げた二つのサイトを挙げておく。

solchord.jp

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