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夏葉社 島田潤一郎さんの本

島田潤一郎さんの本『あしたから出版社』【2014年6月 晶文社刊の単行本を2022年6月にちくま文庫化】を読んだ。島田さんは2009年9月 33歳の時に東京吉祥寺のマンションを借り、資本金300万円で株式会社夏葉社というひとり出版社を始めた。

青筋立てて肩をいからせるのでなく、淡々飄々と、動機からお金の算段まで細かなあれこれがつぶさに綴られていて面白い。

〈表現として〉だけでなく、〈事業として〉映画に向き合おうとする人にはきっと参考やヒントになる本だと思う。「どうつくるか」だけでなく、それ以上に「どう売るか」「どうすれば届くか」を考えるのに役立ちそうだ。実際に手に取って読まれることをおススメする。

ココではひとつだけ。島田さんが文学や本好きになった理由について。

大学生だったぼくが文学に惹かれたのは、文学にはすべてがあるように思えたからだ。大学で学ぶ学問が専門化していき、実用的なものに吸収されていくのにたいして、文学はいかにもおおらかで、実学とは違う場所で生きている感じがした。死も、恋愛も、青春も、不安も、退屈も、老いも、夕闇のほの暗い感じも、文学ではすべてが大切なテーマとなった。

いい文章を読むと、「あっ、これは!」と思う。自分の頭のなかにあった言語化されていない何かが、ここに、文章として再現されていることに感動する。それはリアリティというのとはすこし違う。本のなかに書かれている文章を通して、読み手は、世界を再体験、ないしは再発見する。これまで経験したことや、思ったことは、あたらしい言葉によってふたたび火を灯され、いままで見てきたたくさんの景色や、いままで出会ってきたたくさんの人のことを、思い出す。それは美しいものだけではない。不安や、嫉妬や、仲違いや、憂鬱だった日々さえも、昨日のできごとのように、生々しく思い出す。

すばらしい作品を読んだあと、世界は、これまでより鮮やかに見える。人々は、よりかけがえのないものとして、この目に映る。【2022年6月文庫化された ちくま文庫版『あしたから出版社』88~890頁 一部抜粋 太字強調は引用者 】

「本・文学・文章」⇒「映画」に置き換えて読んでみては‥どうだろうか。