2ペンスの希望

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残るかどうかは‥

今日は本の宣伝。大学時代の友人の新刊本。北中正和『ボブ・デュラン』【2023.2.20 新潮新書

前作は『ビートルズ』だったが、今回は『ボブ・デュラン』ともにビッグネーム、本もごまんと出ている。あえてそこに加える・加わる勇気。

帯は「本質がわかる決定版!」と煽るが、中身は青筋立てて肩を怒らせたものでなく、いたって飄々。平熱・平温でデュランの音楽を語り、その背景や音楽の歴史の文脈をひもとく眼差しは、優しくて、易しくて、深い。

ほんのさわりを少しだけ。

 

上を向いて歩こう』のハミング


 ボブ・ディラントム・ペティのバンドと86年に来日したとき、短時間ですが、取材に同席する機会がありました。インタヴュアーは篠崎弘さんだったので、ぼくはその場をほぐすための露払いとして、彼がコンサートでリッキー・ネルソンの『ロンサム・夕ウン』をうたった理由をたずねました。尊敬しているからという返事しか戻ってこなかったのですが、その3か月前の85年12月に飛行機事故で亡くなったリッキーを追悼して演奏したことはまちがいないでしょう。

 後に『ボブ・ディラン自伝』を読んでなるほどと思いました。60年代初頭のニューヨークの思い出の中で、彼はリッキーのために異例の2ページも割いて、当時ティーン・アイドルとして人気者だった彼と無名の自分は対極の世界にいたのに、彼の歌声が感じさせる孤独に自分と共通するものを感じたと書いていたからです。
 コンサートでのもうひとつの驚きは、「上を向いて歩こう」を演奏したことでした。取り上げた理由を質問しても、好きだから、という言葉でかわされましたが、しばらく評論家のたわごとにまつわる話をした後、彼は「たとえばこの曲のように」と、「上を向いて歩こう」の冒頭部をハミングしてから、一呼吸おいてこう続けました。「評論家は一度聞いてすぐに判断しようとするが、歌が残るかどうかは20年、30年経ってみないとわからない
 そのときは彼にしてはひねりのない言葉だと思って、聞き流してしまいましたが、月日の流れは早いもので、それから30余年。いま思い返すと、おっしゃるとおり、という他ありません。(太字強調は引用者)

映画だって同じこと。ディランさんのおっしゃるとおり。

「映画が残るかどうかは20年、30年経ってみないとわからない