2ペンスの希望

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巻物と帳簿

池澤夏樹さんの『ぼくたちが聖書について知りたかったこと』という本を読んだ。
【2009年10月小学館刊】
聖書の逸話・専門用語については全く歯が立たずチンプンカンプンだった。ただ
書かれた文字=テキストには二種類がある」という話は面白かった。
テキストには「長い朗誦を一本の線のようにそのまま書き留めた巻物=巻子本」と「表のように行と列を持つ伝票の束・帳簿のような冊子本」の二つがあり、かつては「長いひとつながりの物語(ストーリー)だったものが、折りたたまれページに収められて、だんだんとカード化され、その最終形態がウイキペディアだ」と池澤さんは語っていた。
重ねて、
全体の一貫性は失われ、物語が一覧表に近づいている」こと、「断片の集まりを束ねる力が弱くなって、ただひたすら散らばってしまってトータルな世界観を持とうとさえしない」とも‥‥。
「世界の断片化」確かにその通りだろう。
映画の世界でも、半径数メートルのリアル=断片的なエピソードを淡々と連ねたものが多い。正面きって、国家や社会、政治を採り上げるようなのは敬遠されがちだ。(関西弁なら「何イキってんねん」、関東・標準語なら「ダサ〜イ」と却下か)  しかし、だ。
「カード化」し「断片化」したこの世界を、どう「織り成し」「編みこんで」世界というリアルを見せてくれるのか、作家の仕事なんてそこにしかない筈だ。近づいて見る限りでは個々バラバラ断片的なエピソードの恣意的な集合体にしか見えない織物が、
トラックバックしていくと壮大な世界地図に見えてくる。そんなテキスト(織物)を
是非見てみたい。(いや、作り手の端くれとしては、何とかトライしてみたい)
巻物スタイルの物語ではなく、帳簿の中にどんなドラマを発見出来るか、その作業はまだ手付かずのまま残されている。そう思うのだが‥‥。