2ペンスの希望

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「紙の中にリアルがある」

芸術新潮2014年1月号がつげ義春を特集していた。
デビュー60周年という触れ込みだった。どんなものかなと手にとってみたが、巻頭記事が素敵だった。東村アキコさんという漫画家の《「やなぎや主人」に一目惚れ》
‥マンガの読み方はふたつあると思うんですね。
ひとつは、今の自分の状況にストレスを感じてて、マンガに救いを求める読み方。スカッとする系を欲している人がほとんどだと思うんですけど。私はそういうのはマンガにまったく求めなくて、知らない世界とか知らない考え方を知りたい。シンプルにそれだけなんですよ。旅行に行ってもそこにはチェーン店ばっかりの似たような風景しかなくて、味気ない思いをすることが多いけど、つげ先生のマンガを読むと、自分が絶対味わえない時代や世界の空気とかの匂いを実感できるでしょ。
私はつげ先生のマンガを純粋なエンターテインメントとして読んでるから、意味や裏を考えたことは一回もないんです。そんなことを考えるのは、すごく無意味なことだと思うんで、私にとっては。生意気なようだけど、自分もちょこっとだけ描いてるっていう立場もあったりして、みんなが後々スゲーって言ってるシーンも、つげ先生はなんにも考えてらっしゃらないっていうか、そこまで深い意味を持たせてないんじゃないかなって気がするんですよ。‥‥
‥‥つげ義春先生って、現実に私たちが生きていると、こういう瞬間ってあるよなというのを、紙にスッと落とせる稀有な作家だと思うんですよ。ドラマを盛り込まないからこそ、本当のドラマがそこにある、みたいな。‥‥要するに余計なことをしてないのがスゴイんですよ。余計なこだわりが入ってないからこそ、ストレートに胸に迫ってくる。それって紙の中にリアルがあるってことなんです。この人たちが生きている現実がちゃんとある。だから好きになっちゃうんだと思うんですよね。
[談 :太字強調は引用者] 
と語りながら、同じマンガの実作者らしく、画の力を列挙する。アミ掛け・スクリーントーンの使い方、雪の描き方、構図、コマ割り、頁づかい、台詞の上手さなどなど‥‥
語りは延々と続く。
東村さんは1975年生まれ。つげマンガが描かれたピークの頃にはまだ生まれてもいなかった。それでも、つげマンガの真髄に心酔しているワクワクが伝わってくる文章だ。
マンガ(とあるところ)を映画に置き換えて、もう一度 読み直してみて欲しい。