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偽ニュース映画

『アンチ・スペクタクル 沸騰する映像文化の考古学(アルケオロジー)』【東京大学出版会2003年6月 長谷正人・中村秀之編訳】という本に、20世紀初めにジョルジュ・メリエスが作った「偽ニュース映画」についての記述がある。元々は、1991年7月に出た小松弘『起源の映画』(青土社 刊)297頁にこうあるそうだ。(孫引きご容赦)
メリエスは、ギリシャ・トルコ戦争 (希土戦争1897) のニュース映画を、舞台セットとして描かれた軍艦のデッキの前で水兵の服装を着せた役者に演じさせて作っている。 しかも観客は、それが偽造であることに気づいていながら、一種の報道として(いわば新聞におけるイラストレーションのようなものとして)受容していた。

上述の長谷正人教授は、「映画の初期には、ニュース映画のリアリズムに呪縛されないような観客が存在していた」と手放しで礼賛しているが、言い過ぎだろう。
ただ、映画の原初の輝きを、ハリウッド映画やテレビ中継出現以前にあったポテンシャルとして再評価したいという長谷センセの思い わからぬでもない。
美的・幻想的イリュージョンの発展の歴史でも、現実をそのままリアルに伝えるメディア進化の歴史でもない もう一つの映画史の可能性。
20世紀初頭の観客に戻ったつもりで ご覧あれ。