数日前に書いた文藝春秋編『大アンケートによる日本映画ベスト150』には姉妹編『大アンケートによる洋画ベスト150』【1989年7月 文春文庫ビジュアル版】もある。裏表紙を挙げる。
〈カバー裏〉フィルムでMをデザインしたのは、90年の長きにわたって人類を楽しませてくれている"Movie"の頭文字によって、映画への敬意を表さんがためである。 (編集部)
と但し書きが附されてある。
ペラペラ繰っていたら、女優ベストテンの第8位にフランソワーズ・アルヌールがランクインしていた。実は最近見直した映画でとても心惹かれた女優さんだったので、ちょっと嬉しくなった。しかも、あろうことか昔大好きだった小説家 吉行淳之介さんが「フランソワーズ・アルヌール賛」を書いていた。
「フランソワーズ・アルヌールはいい。全体の感じは、そこらにいるフランス女だが、その中で飛び抜けて美しくムードがある。小柄のところもいい。といっても、どのくらいの背丈があるのか、よく分からない。低いヒールの靴をはいて、ジャン・ギャバンの耳のあたりに頭のてっぺんがある。もっとも、ギャバンの背丈も分からないが、大男とはいえまい。脚はよく伸びて締まっているが、痩せた細さではない。眼は霞み加減で色気があり、おそらく片目がいくらか外斜視なのだろう。‥‥
かんがえてみると、私は『ヘッドライト』でしか、アルヌールを見ていない。つまり、長距離トラックの運転手役のギャバンとの悲恋を演ずる映画においての二十代前半のアルヌールがよかった、ということになる。ギャバンの年齢設定は四十代後半か、それにしてはヨタヨタしていて、そこも悪くなかった。この映画はときどきテレビで放送され、その度に見直し、とうとうビデオに採った。
この原稿を書くにあたって、ビデオを見直したが、やはりよかった。一九五六年の作品と分かり、原題は「しがない人々」ということも分かった。白黒画面であるのが、かえってよかった。私は試写室で映画を見ることはめったにないが、その数すくないものの一つである。映画評を書くためだったのだろうが、何を書いたか忘れた。‥‥」
吉行さんの「ヘッドライト映画評」は、確か小川徹編集長時代の雑誌「映画芸術」で読んだ記憶がある。何が書いてあったかは、同じく忘れた。
アルヌールの着るレインコートが 胸に沁みて 離れない。