『映画プロデューサー荒木正也 映画の香気 私のシネマパラダイス』【2022.1013. Echelle-1 刊】
荒木正也 その弐:後進の道
「木下さんは、やや女性的なやさしい話し方をなさる方でした。世間の評判も女性的な感覚ということで受け止められていましたが、実際はスパッとした男性的な判断をなさる方でした。逡巡などなくいつも自信をもって言い切ってをられました。‥‥(略)‥‥大船で木下さんくらい弟子を次々と監督に育て上げた方はいません。小林正樹、松山善三、河頭義郎、大槻儀一、吉田喜重と続くメンバーは、日本映画にそれぞれの足跡を残されています。小津さんの助監督から殆ど監督が生まれなかったのとは対照的なことです。小津さんの助監督は、偉大な監督にお仕えしていました。それは尊敬という以上の宗教にも似たものでした。小津さんの作品に接しているだけで満足でした。小津さんも弟子たちを監督に昇進させるための政治的な動きなど絶対に考えない人です。木下さんはご自分が島津保次郎さんのお弟子さんだったこともあってか、後進の道を考えてあげることも先輩の務めと思ってをられたのでしょう。それとも次々と助監督を新陳代謝することでご自分の活力とされたのでしょうか。ただ、確かなことは、弟子たちの誰も自分を超えてはいかないという自信があったに違いありません。天才は自分だけだと、ご自分が一番認めていらっしゃったのだと思います。」
撮影所があった時代のリアル。
それぞれの監督の品と質が目に浮かぶ。これもまた映画史の一つ、だと書き留めておく。