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荒木正也プロデューサー肆 因果 因縁

映画プロデューサー荒木正也 映画の香気 私のシネマパラダイス【2022.1013. Echelle-1 刊】その肆は、難産続きの『東京裁判』製作エピソード 二つ。

因果:ナレ録り二十五回

編集がある程度進むと、並行してナレーションどりが行われます。

ナレーション:佐藤慶

小林さんは鬼ですから、平気で編集を小直しすると、また佐藤慶さんを呼んでナレーションの入れ直しです。結局、佐藤さんは二十四~二十五回ほどナレーションどりのためにアオイスタジオに呼び出されました。最初に決めたギャラを少し割り増ししましたが、そんな額ではとても折り合えない仕事量です。それでも佐藤さんは、「小林正樹じゃなあ」と苦笑いしながら我慢してくれました。

因縁:タイトル文字一万字

ナレーションどりと並行してタイトルの発注も始まりました。『東京裁判』という作品には夥しいタイトルが必要です。全編で一万字を超える字数になります。それを引き受けたのが赤松陽構造(あかまつひこぞう)さんです。実は彼に発注した時に、私たちは彼の父上が戦前の日本ニュースのタイトルを作成されていたのだという事実を聞かされました。

彼は父の残した仕事と一緒になっての作業に大きな意義と感激を持っていました。「母がこの仕事を僕がすることを大変喜んでくれていましてね、との彼に述懐に、思わず目頭が熱くなったことを今でも覚えています。因縁というものがあるのだという、実感させられました。彼の傾注によって、タイトルは見事な出来栄えでした。

メインタイトル

附記:この荒木本には、他にもアナクロニズムと思われかねない映画『次郎物語』の1987年リメイク裏話や1981年映画『泥の河』が世に出るきっかけとなった立ち回り、1990年映画『死の棘』についての生々しい舞台裏なども載っているが、いささか自慢話的でもあり、荒木P(プロデューサー+プランナー=フィルムメーカー)の本意・本線からは少しズレると判断して割愛する。ただこの本、映画の心棒・信望・深謀・辛抱の芯の一端を語る「読本」としてはおススメ、太鼓判だ。さいごに日大芸術学部映画学科教授古賀太さんのブログの文言を再録しておく「若者が映画プロデューサーとはどんな仕事かを知るのに、うってつけの本だろう。決して古くない。」[荒木正也著『映画の香気』に涙する: そして、人生も映画も続く]