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訃報

2月9日9時9分ひとりのドキュメンタリストが大阪で亡くなった。布川徹郎さん(69歳)。小川紳介土本典昭ほどには知られていないが、筋金入り・紛れもなく力と志を併せ持つ表現者だった。1968年NDU(日本ドキュメンタリスト・ユニオン)を結成、以来一貫して「共同制作」を志向、生涯「監督」を名乗らなかった。
1971年『沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー』は返還前の沖縄に密航、コザ市照屋に住み込んで娼婦やヤクザ、ブラックパンサー党員の黒人兵、全軍労のストライキなどを記録した映画だ。モトシンカカランヌーとは、モトシン(元銭)のカカランヌー(かからない)商売という意味。
昔東京で一緒に映画を画策していた頃のやりとりを思い出す。ある時ドキュメンタリストの(必要)条件は何だろうか、という話しになった。布川さんは即座に「対象に好かれること、対象にもてること、この二つに尽きる」といった後、「世界を(自意識からでは無く)本当に愛すること」と付け加えた。その時の澄んだ眼が忘れられない。
告別式は、年若い友人たちが中心になって執り行われた。最後に住んだ大阪釜ケ崎近く、僧侶も読経もない、風のように爽やかな式だった。
いつの世もホンモノはひっそりと退場するのみか。
2月25日午後1時から、「ふるさとの家」でお別れの会が開かれる。【お断り:布川さんの経歴紹介にあたっては、NDS(中崎町ドキュメンタリースペース)・プラネット映画資料図書館の文章の一部を借用しました。記して謝意に代えます。】