2ペンスの希望

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フィルムは〜

手塚治虫のこれ一本ということなら迷うことなく『フィルムは生きている』を挙げる。
アトムでもBJでもない。ただただ一途にマンガ映画作りを夢見る少年がヒーローだった。拙管理人が持っているのは、鈴木出版発行版手塚治虫漫画選集5、定価170円。
奥付を見ると昭和三十四年八月発行となっている。

いつ頃どこで手に入れたのかは忘れた。裏表紙にスバル書房・貸本のゴム印があるので、発行から数年後にどこか大阪の古本屋に流れてきたのを見つけたのだろう。中学時代から高校時代にかけての十代には繰り返しむさぼり読んだ。その後も何度も読み返してきた。人生で一番長く付き合い読んできた本のひとつだ。
ストーリーは、宮本武蔵佐々木小次郎の巌流島対決に借りたものだった。

「タンバササ山から出てきて、努力と勉強でマンガ映画と取り組む青年」ムサシと「財閥の一人むすこで、父に資金を出してもらってスタジオを建てムサシときょうそうする天才少年」コジロウの物語だ。途中マンガ映画のしくみの説明や歴史が随所に語られる。昭和三十四年頃の世界マンガ映画勢力表まである。米のウオルト・ディズニー、マクス・フライシャーはもちろんポール・テリー、英デービッド・ハンド、仏ジャン・イマージュ、ポール・グリモオ、加のノーマン・マクラレンチェコの人形映画トルンカ兄弟、ソ連モスフィルム漫画映画研究所や中国北京電影公司伴兄弟などの名が見える。(今 見返してみると発音表記の不備や誤りもあるようだが‥そのままの転記とした)
手塚の情熱と執念は紛れもなくホンモノだった。
思い返せば、手塚がこのマンガを描いたのは三十歳前後。アニメという言葉もまだ知られなかった時代のことだ。舌を巻く。改めて脱帽。