2ペンスの希望

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86−10「困ったものだ」

時評の第一回は「キネマ旬報」1986年10月下旬号に掲載された。
手書きアニメが力量を高めつつあるのに対し、多人数による手作業でつくられてきた劇映画の貧しさと狭さ、衰弱が目に付く。困ったものだ」という嘆息から始まる。さらに悩ましいのは、「映画はもっと豊かなもののはずだという思いや願いには、必死なまでの切実さがありながら、そうやってつくられた映画が、豊かさを実現するどころか、むしろ逆に貧しさを露呈してしまっている」と指摘し「自画自賛をくりひろげていたら自家中毒を起こしたというわけで、無残な逆説という以外ない」と書く。
結語にはこうあった。「ま、海にむかって、ちっちゃな石ころを投げるだけですよ。
                 【註:青字部分は、山根時評からの引用箇所 以下同様】
辛抱強く三十年近くも投げ続けてきた「ちっちゃな石」は一瞬の波紋を起こした後は海深く沈んで見えなくなる。2012年の今、波紋の軌跡を辿り、教訓その1を紡ぎだすなら、閉じないこと・さらすこと。「自家中毒を避ける道は、自画自賛を止め、外の風に自分をさらし続ける」ということにでもなろうか。映画界というちっちゃくちゃちな村中に閉じこもっていては置いてきぼりを喰い続けるだけだ。永遠に浮かばれない。