2ペンスの希望

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すべり芸

不思議な映画体験をした。
主演の一人(すべり芸芸人)の芝居・台詞が棒読みでひどかった。目も当てられないのだが、映画としてはそれだから致命的ということでもなかった、むしろさわやか、後味も悪くなかった。へんな幸福感で見終えた。よく出来た映画だとかお見事とはとてもいえないが、及第点は進呈してもよい、そんな気分で観た。
くだんの役者のお芝居の評価を知りたくてネットを覘いてみた。下手糞とか素人以下というのも勿論あったが、好評・高評価なのも少なからず見つかった。人柄が滲み出て、いい味出している、とかとか。
(その昔、横尾忠則主演の『新宿泥棒日記』という映画があったことを思い出す。)
監督さんは松竹系の撮影所でキャリアを積んできた方のようで、長編劇映画としては二本目、原作もので脚色も自分で手掛けている。何とか映画にしようとあれこれ工夫している跡が見てとれる。だからなのか、すべり芸芸人の素人演技も許容範囲に納まっているということになろうか。キャスティング段階から想定内、下手は織り込み済だったのか?それとも、アチャーだったが結果オーライだったのか? 正直よく判らない。
改めて、映画は雑多な要素が幾つも積層して出来上がっているのだと納得させられた。素人でも役者でも人となりがそのまま映ってしまうこわさと面白さ。 深謀遠慮?奥深く欲深い。
すべり芸という言葉、なんとなくは知ってはいたが、改めてウィキペディアを引いてみた。「すべり芸とは、一発ギャグやトークでその場を微妙な空気にしてしまう芸のこと。 かつては「すべる」ことは、芸人として最低であるという評価を意味するダメ芸人の烙印であったが、2000年代後半になってすべり芸人は多くの(テレビ)バラエティ番組から呼ばれるようになった。 最近はすべり芸を売り物にする番組もある。」とあった。
解説の末尾が面白かった。
明石家さんまは、「すべり芸なんてないからな。誰でもこの業界に入った人は(相手を)爆笑させようとしてるから」と否定しながらも後輩すべり芸人を重用し、萩本欽一は、すべり芸を認めつつも、「すべり芸で素人に勝るものはなし」と語り、弟子筋に当たる小堺一機は、「ただすべるのとすべり芸は違うとし、実に奥が深い」と語っている。」 【引用については一部改変】