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ゴースト

神山典士 著『ゴーストライター論』【平凡社新書772 2015年4月15日 刊】を読んだ。神山さんは、2014年2月「佐村河内事件」をスクープし、週刊文春で一連の記事を書いてきたフリーランスのライターだ。出版業界で長く仕事をする中でゴーストライティングも何本も手掛けてきた。その経験から、出版業界のゴーストライターの実態と実状を書いた本だ。神山さんは、ゴーストライター=悪と単純に決め付けるのではなく、著者、編集者、ライターが力を合わせた「チームライティング」という呼称を提唱する。
著者=クレジット上の人、ライター=実際の執筆者
他者の「主観」で文章を紡ぐ喜び」を語り、ゴーストライターは、取材・インタビューによって「本人が自覚していない人格を掘り起こし」て「それを読者が読みやすく感情移入しやすいように「構成」し、「言語化」するデザイナー」なのだと定義される。
文中には、1978年7月『成りあがり』が生まれたエピソードも登場する。著者:矢沢永吉 編集者:島本脩二 ライター:糸井重里 というチームの誰一人が欠けても生まれなかったであろう「黄金の作品」と語られる。
実を言えば、(神山さんにははなはだ失礼な話だが)本文よりも「まえがき」と「あとがき」を一番面白く読んだ。
ゴーストライター=書籍設計事務所」説、「雑誌が氷河期を迎える中、かつてあった若手ライターの「千本ノック」的な訓練が不可能になったこと」「雑誌の余剰人員が新書編集部に移籍し、雑誌的なテーマも含め、フィクション以外なら「何でもあり」の「新書最終戦争」に入っていること」「ライターよりも「その世界の当事者の言葉で読みたい」ニーズの高まりでライター需要は膨らんでいること」などなど。なかでも、ネット媒体のギャラの安さは初めて知った。「「一文字一円でお願いします」というネットサイト編集者の発言」、「取材ゼロ、サイト情報の切り貼り」だけというネット記事の内情、「兼業ノススメ」等。 映像業界も悲惨だが、出版の世界も変わらぬ荒廃みたいだ。