2ペンスの希望

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『魔女 WITCHES』

以前『海獣の子供』を読んで面白かった漫画家 五十嵐大介さんの旧作『魔女 WITCHES』を読んだ。【小学館IKKI COMIX 2004〜2005年】印象的だったシーンを備忘録風に綴っておく。
第2集から[PETRA GENITALIX](タイトルは、生殖の石を意味するギリシャ語から採ったそうだ。)
EU初の宇宙船発射前の女性宇宙飛行士がラジオで喋っている場面。
女性宇宙飛行士「宇宙へ行くなんて言うと、とても遠いところへ行くと思われるけど、そんなことはないの。わたしたちが行く“宇宙”は、地上から約300キロの周回軌道。パリからロンドンに行くより近いんです。ニューヨークからボストン、トーキョーからナゴヤと同じだってスタッフが言ってました。ドイツに住んでるいとこに、あんたの家からベルリンに行くのの半分くらいよって言ったら、そんなに近いのって、びっくりしていたわ。わたしは宇宙は身近な世界だと みんなに知ってもらいたいんです。
北欧の山中、魔女の村で老魔女がポケットラジオから流れる音声インタビューを聴いている。傍らの少女=魔女見習いに語り掛ける。
老魔女「‥‥
 〃 「ねえ アリシア‥。わたしの祖父も父も村から山を越える道路をつくる工事で死んだのよ。ひどい事故だったわ。
見習い魔女アリシアは、薪割り仕事をしながら聴いている。
老魔女「今の若い人たちは、どこに行くにもほんの2、3時間で着くのがあたり前だと、思っているけれど、 その上にはそうできる仕組みを作るために関わった多くの人生が、ぼう大な時間が、積み重なっているの。それを忘れてはいけないわ。自分の“楽”は必ず誰かが肩がわりしているの。大きな技術に関わっている人たちが、その事を忘れてしまうのは、ほんとうに恐ろしいことよ。」(太字強調は引用者)
やがて、宇宙船事故が起き、街は災禍に見舞われる。
解決のために魔女が呼び出される。魔女ミラは見習い魔女のアリシアを伴って山を下り、カトリック教会の神官たちの前で語る。
魔女ミラ「あなた方の立場から見れば、わたしは2つの世界をつなぐ者。言葉のある世界とない世界の。 あなた達の世界は“有限”。 わたし達の世界は“無限”。あなた達の言葉は、ありとあらゆる可能性を特定の性質に切り分けるナイフ。自分達の都合のいいように世界を刻む道具。わたし達は世界をあるがままに見る。わたし達は言葉を知りながらそれを棄てることができる者。
やがて、魔女ミラは我が身を犠牲にして世界を救おうとする。その理不尽に何故と問う見習い魔女マリシア。ミラが答える。
魔女ミラ「“魔女”は考えないの。魔女はただ知っているのよ。
      自分自身のするべきことをね。

なかなか男前な台詞でキメル。クサイという人もおられるだろうが‥‥。一読おススメ。