2ペンスの希望

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〝映画のすみか〟奥のその奥

いにしえの映画館の写真を撮り続けている中馬總さんのことは以前にも書いた。

kobe-yama.hatenablog.comその中馬さんの新しい本を読んだ。

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文:藤森照信 帯:宮崎駿 編集:久下まり子 校閲岡田秀則 出版:青幻舎(京都)

色んな人々が、中馬さんの思いを汲んで旨くつながり出来上がった「幸せな」本だった。

十代の頃どっぷり浸った近隣の映画館が匂うように立ち上がってくる。映画そのものでなく、映画にまつわる商売の奥行き、暮らしぶり、建物のたたずまいが浮かび上がってくる。重箱の隅っこほじりみたいだが、幾つかメモしておく。

◎明治から大正にかけて初期の映画館建築について⇒「(見てくれ・外観・デコレーション)うわべの完璧と中身の仮設の使い分けは確信犯

◎藤森の「おわりに」⇒「芸能性の奥の奥には血と性が隠れ、‥‥、ぬぐえばぬぐうほどさらに奥へ奥へと隠れながら、どういう回路によるのか、それと気づかぬように変形して表立ってきてしまう。かつて映画と映画館が受け止めてくれた芸能を求める気持ちが人間の本性に根ざすとするなら、これからどんな領分と建物がそのあたりを受け持つことになるんだろう。そうした領分は生まれるにしても、もう建物は必要ないと思う一方、映画館のように共通の場は不可欠だろう。

◎映写用カーボン=フィルム映写機の古いタイプは、カーボンアーク灯を光源にしていた。かつてその「映写用カーボン」を作っていた横浜の「第一カーボン」は、今では光線治療用カーボンなど医療用カーボンはじめ新しい分野で事業を展開していることもこの本で知った。(ちょっと前に書いたフィルム缶メーカーのことを想い出した。時代は変わり、事業も商品スタイルも変わりながら、しぶとく逞しく生き続ける姿には、打たれる。)