2ペンスの希望

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電気と光

時間が巻き戻せないことは百も承知だ。アナログからデジタルへ。ケミカルからエレクトロニクスへ。フィルムの時代は戻ってこない。けど、フィンランドの映画監督アキ・カウリスマキはかつてこう言っていた。

新しい技術にいつも過剰にはしゃぐ監督たちっていうのは、実際には古いものをちゃんと使いこなせていないことを隠しているだけだ。電気は光の変わりにはならない。花が欲しいのは光だ。」【Peter von Bagh 『AKI KAURISMAKI』愛育社 ユーロスペース 2007年8月刊 訳 森下桂子】

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電気・電子の時代になって、技術はブラックボックス化した。フィルムの時代は、化学と機械、いずれも人間の目と手で確認しながら進むことができた。もはやそれは不可能だ。ブラックボックスの中を覘かなくとも、テレビは映るし、スマホは使える。その先の面倒は必要ない。誰かに任せておけば良い。それで済む。何故とその先のことを考える暇はない。難しいことは考えないで、新しいツールと戯れる方が楽しいしらくちんだ。そうだろう。けど、本当にそうだろうか。簡単便利が、痩せて貧相しかもたらさなくなって、元も子も失っていくだけなら情けない。お粗末に過ぎる。

手にするツールは変わろうと、「古いもの=過去と歴史」に学ばぬ輩に未来はない。映画は子どものオモチャじゃない。大人の産物。無数にある叡智のひとつ。甘く見てはいけない。