2ペンスの希望

映画言論活動中です

インエイライサン

岡本健一という映画人がいた。関西で活躍した照明技師さんだ。1914年(大正3年)生まれ、2002年(平成14年)他界。当管理人も一度だけ一緒に仕事をしたことがある。(⇐ コレ、ちょっとした自慢、宝物。)

京都太秦の照明技術会社「嵯峨映画」のHP 二代目社長 古市晶子さんのエピソードを引く。

f:id:kobe-yama:20211025061308j:plain

岡本健一さんは平成14年3月5日、享年87歳でお亡くなりになりました。黒澤明監督作品「羅生門」、溝口健二監督作品「雨月物語」など数々の日本映画の照明技師として活躍されました。
 岡本さんはとてもおしゃれな方でいつもベレー帽をかぶり、天気のいい日はご自宅から弊社までサイクリング、その格好もショートパンツにハイソックスという出で立ちです。コーヒーが大好で、映画の話を始めると目が輝いてました。
 二十数年位前のある日、私は一冊の本を、「これ読んでみィ-。」と渡されました。谷崎潤一郎の著書「陰翳礼賛」(インエイライサン)でした。「この本の中に書いてある言葉どおりの光を作りたいねん。昔の便所は足下に窓があってそっから光が差し込む。朝の光、昼の光、夜の豆電球の光、みんなライトで創れるんでー。時代劇は夜は蝋燭の光しかあらへん。蝋燭は揺れる。それもライトで創れる…。みんな撮影部がええと言うけど照明部の方がずっと面白い。手柄は撮影部やけどなァ」と止めどなく話されました。私はその夜、その本を読みました。二十数年前に読んだので、今となってはあまり記憶にはないのですが、日本家屋の陰について谷崎の格調高い品格ある文章で深く追求されていました。私は照明の技術的なことは全くわかりませんが、一人の人間として向きあった時、仕事へ傾ける情熱、姿勢は感じとることが出来ます。何とかして監督、カメラマンの要望に応えようとする気構え、気迫は作品に醸し出されるものだと思います。これからライトマンを目指される方、是非ご一読を。

 晩年になっても仕事に対する情熱は衰えず、「どんな仕事でもええんですわ、わてはずーとライト触ってたいねん、」と仰って、現場をこよなく愛した方でした。

大変なおしゃべり好きで口調が今も耳に残る。口も滑らかだったが、仕事の手はそれ以上に早く達者だった。