2ペンスの希望

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つなぐ

前々から読みたいと思っていた本をやっと読んだ。佐々涼子さんの『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』【早川書房 2014年6月初版 刊】
ポーズ写真がいかにも昭和でほほえましいが、それなりにヒットし、本好きの間では知られた本だ。(紀伊国屋書店の店員さんが選ぶキノベス!2015の第一位に選ばれていたりする。) 大当たりだった。 機会があれば直接手にとられることをオススメする。
ただし今日引用するのは、本の趣旨・趣向からは遠く外れた箇所。
『2014年版 出版指標年報』によると、二〇〇〇年には書籍と雑誌を合わせた推定販売部数はおよそ四一億八〇〇〇万冊だったのが、二〇一三年は、二四億四〇〇〇万冊にまで落ち込んでいる。出版物の販売数は坂道を転がり落ちるように減っている。
 それに抗うようにして、出版社は短期間で次々と本を世の中に送り出す。
 出版不況にあえぐ版元は大きく負けることができない。赤字を出せない彼らは、ある程度売れる本を出そうと、安全圏で手堅く商売をしようとする。結果として似たような本が増えていく。
 もちろんそんな本ばかりではない。書店を探してみれば、作り手の覚悟が形になったかのような誇り高い一冊が見つかるはずだ。容易ではないが、見抜くのは読者の持つ役割だ。
 本が手元にあるということはオーストラリアや南米、東北の森林から始まる長いリレーによって運ばれたからだ。製紙会社の職人が丹精込めて紙を抄き、編集者が磨いた作品は、紙を知り尽くした印刷会社によって印刷される。そして、本の装幀家が意匠をほどこし、書店に並ぶのだ。手の中にある本は、顔も知らぬ誰かの意地の結晶である。
 読者もまたそのたすきをつないで、それぞれが手渡すべき何かを、次の誰かに手渡すことになるだろう。こうやって目に見えない形で、我々は世の中の事象とつながっていく。

少子化で縮小傾向にある出版市場、電子書籍化の進展と脅威も射程に入れ、一私企業の運命は、業界を反映するとともに、日本の製造業全般、東北という地域、日本という国の行く末にもつながると、広視界から語られるルポルタージュ本。
なにやら映画業界のことにも見えてきて、身につまされる。
又オマエは、何でもかんでも映画に結び付けて、と呆れられそうだが‥‥。
見抜くのは読者=観客の役割」というくだりは、気が気でなかった。
最終の生殺与奪権は読者が握っている‥今の観客は未来の責任も負っている‥。
権利と義務、責任と役割、襟を正すべきだろう。