2ペンスの希望

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役者の演技

荒木一郎『まわり舞台の上で』【文遊社 2016年10月 刊】を読んだ。
多才な人だ。
いろいろ面白かったが、映画の役者を志す若い人が読むのが一番ためになりそう。下手な演技教則本よりずっといい。精神論ではなく具体的なメソッド・やり方が書いてある。役に立つ。中身については自分で当たってもらうしかないが、
基本の基、いろはのい を少しだけ。
自分が演技をするとき、いちばん大事なことは、映画が終わったあとにその人にまた会ってみたいとお客さんが思うかどうかなんだ。荒木一郎に会いたいって思うんじゃなく、その役の人、モグラならモグラに会いたいってね。」(註:モグラは映画『現代やくざ 血桜三兄弟』[1971東映 中島貞夫監督]の役名)
もうひとつ。
『白い指の戯れ』[1972日活 村川透監督] 『ポルノの女王 にっぽんSEX旅行』[1973東映 中島貞夫監督])を映画館に見に行ったときの体験⇒
「(『白い‥‥』は、)俺が階段に出てきた瞬間に、高倉健が出たんじゃないかと思うくらい、みんな拍手するんだよ。他の館でも、ワーッと。で、『ポルノの女王‥‥』は、タイトルロールで車を走らせいるシーンがある。その横顔が出るとみんなゲラゲラ笑うの。別に喜劇的なことをやってるわけじゃないんだけど。あれはすごいね。片や、ただハンドル持って運転してるだけ。片や、階段を下りてくるだけ。何にもしないうちに役柄が観客に伝わっていく。一人の人間像を、最初のシーンで感じてくれちゃうんだよね。そういうふうに、一般の人たちは才能と言ったらいいか、役をちゃんとやると、それを受け取る感性を持ってるんだよ。
荒木の時代とは映画業界も音楽業界も様変わりした。
それでも、「演じること」「伝えること」「伝わること」の根っこは変わっちゃいない。