2ペンスの希望

映画言論活動中です

藁の職人

小塚昌彦さん。1929年生まれ。毎日新聞社技術本部で活字書体の開発に携わり、
その後モリサワ写植用書体を経て、アドビでフォント制作ツールも手掛け、小塚明朝、
小塚ゴシックなどの名が残る、日本活字界正真正銘のレジェンドの一人。
『駕籠に乗る人かつぐ人、そのまた草鞋を作る人』ということわざがあります。物事には、表面には出ないけれども、陰で支えになるいろいろな人の力がある。私はタイプデザイナーの仕事を、『そのまた草鞋を作る人』の、さらにそのまた『藁』をつくっているんだと思っているんです。文字は書き手のイデアを伝える媒体です。まったくの無色透明ではないけれども、いかにイデアを素直に伝えるかというのが、文字の血の通った大事な役割だと思うんです。だからタイプデザイナーはとてもやりがいのある仕事だけれども、デザイナー自身が派手に表面に立つ必要はないと思うんです」と当初書体に自分の名前を冠することには反対、不本意、嫌がった、と本にあった。
   【雪朱里 著『文字をつくる9人の書体デザイナー』2010年6月誠文堂新光社刊】
職人の矜持、というより責任感。人生の優先順位、姿勢の良さを感じる。
数日前に読んだ本 土田昇 著『職人の近代 道具鍛冶千代鶴是秀の変容』【2017年2月 みすず書房 刊】にもこんなくだりがあった。
是秀が作った刳小刀に「家を建つ人、造る人、そのまた道具を作る者」との歌がタガネ切りされたものを見たことがあります。‥‥道具鍛冶を最下位に置くことで、是秀は自らの仕事を客観視しています。 すでに道具鍛冶名工として知られる存在になってからの製作品ですから、知名度の高さに甘えず、職人らしくあろうと自戒をこめて銘切りしたものと言えます。