2ペンスの希望

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視線計測(アイ トラッキング)

アイトラッキングという言葉を知った。

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ググってみた。

ヒトの眼球運動を分析し、視覚的注意などを明らかにする生体計測手法。 ヒトの視線の場所(注視点)や動きを、アイトラッカーと呼ばれる専門の機械で計測。 取得したデータを分析し、よく見られていた場所や、見る順序、反対に全く見られていなかった場所などを明らかにする。」「人々が「どこを・どのように・いつ見るか」を教えてくれる」とあった。「視線計測」「視点追跡」「電気眼球図記録」

消費者行動解析、広告調査、製品デザイン開発、乳幼児・児童発達、臨床研究など様々な分野での研究活用が進んでいるようだ。

最近読んだ板倉史明神戸大学准教授の論文にも出てきた。

認知心理学者のT.J.スミスは、映画視聴時における観客の視線移動の特徴を次のようにまとめている。観客は映画をみるときに、九十分の劇映画でおよそ二万一六〇〇回も眼球を動かしているという(一秒間に平均四回視線を動かしている計算になる)。劇映画を視聴するときに、観客の視線がある特定の場所に集中する瞬間が何度もあるが、スミスはこの特徴を「注意の同期」(Atteentional Synchrony=以下AS)と命名し、映画の演出とASが密接に関わっていることを突き止めた。フレーミングの影響については、被験者は画面の(両端ではなく)中心付近に注意を向ける傾向があり、登場人物の腰から上のミディアム・ショットが映し出されたときに、人物の顔へのASが最も高まった(さらに顔のなかでも目と口にASが集中するという)。また、画面内の複数の被写体が同時に動いているときにASは発生しないが、画面のある一点だけが動き、そのほかの要素が静止しているときには逆にASが高まるという(つまり画面内における被写体の動きのコントラストが注意喚起の重要な要素である)。なお、同じ映像を何度も被験者に見せると、徐々に映像の細部に注意が向かう傾向があり、また、被験者に映像を見せる前に特定の指示を与えると(動機づけ)、特定の場所にASが発生するという。(Tim J. Smith, "Watching You Watch Movies:Using Eye Tracking to Inform Cognitive Theory," in Psychocinematics,165-191)【「ヒューゴーミュンスターバーグ その遺産と認知主義的映画研究」所収は『映画論の冒険者たち』2021.10.28. 東京大学出版会 刊】

板倉先生は、この「注意の同期」を手掛かりに、小津映画の「静的で様式化した構図と、場面によって移動する小道具の演出」について考察し、「均質的な構図を繰り返し観客に提示することで、観客が画面内の微細な変化につい反応してしまう(不随意的注意)ような演出上の戦略があったのかもしれない。」と書く。

確かにその通りなのだろう。それなりにスリリングに読ませる。悪くはない。でも、なんだか窮屈で肩が凝る。

映画研究がどこまでも細部に目配せし、深部に挑むことを否定するつもりはない。ただ、「木を見て森を見ず」美味しいものは黙って食うだけでいいじゃないか。研究者という商売はつくづく因果で浮かばれにくいなぁ、と思ってしまった。(板倉先生ゴメンナサイ)

おおざっぱでおおらかだった時代はもう戻ってこないのだろうか。