2ペンスの希望

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字幕屋というプロ

知らなかった。
字幕屋の太田直子さんが、今年(2016年)1月に亡くなっていた。本が出たら必ず読むという数少ない書き手の一人だった。
最新刊『字幕屋の気になる日本語』【2016年7月 新日本出版社刊】のあとがき(星野智幸さん)で知った。享年五十六歳。まだ若い。「その二、字幕屋は銀幕の裏側でクダを巻く」(光文社「本が好き!」連載:2007年8月〜2010年1月)から。
つい先日、映画関係者の飲み会で聞いた恐ろしい話。「フェイド・アウト、フェイド・インが時間の経過を表すと
わからない人が最近いるんですよ。
いちいち三日後とか三年後とかテロップを出さないと物語が追えないらしくて」。
 映像がじわっと暗転するのがフェイド・アウト、続いて別のシーンがじわっと浮かび上がってくるのがフェイド・イン。このひと呼吸でよく時間が飛ぶ。小説における一行空きや章替えに近い。どちらも広義の「文法」だ。
 映像/文脈を読み取る力が衰えてきているのだろうか。あいまいさを嫌い、むやみに説明を求める。安易な言葉や音楽で目と耳を埋めたがる。外部からの情報で脳内が満たされれば、独自の思考は止まる。

プロがまた一人姿を消した。合掌。