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小川哲さんの小説『君のクイズ』

直木賞作家小川哲さんの小説『君のクイズ』【2022.10.30. 朝日新聞出版 刊】を読んだ。

アメトーークで採り上げられたり2023本屋大賞にノミネートされたり、第76回日本推理作家協会賞を受賞したりと賑やかな小説だ。

いやぁ、面白かった。謎解きミステリー仕立てだが、むしろ、鮮やかで皮相皮肉なTV論小説であり、見事な今様メディア論小説だと読んだ。貶してるわけじゃない。けど、褒めてるわけでもない。

返しのうまさ」「気の利いた短いフレーズ煽り文句・謳い文句どうやれば番組が盛り上り、視聴者が興味を持つか」「何を口にすれば撮れ高になるか」「どれくらいの尺に収めれば進行の邪魔にならないかを瞬時に計算してコメントを返す」「瞬発力・条件反射」「仕込みヤラセ」「〇〇枠」「割り振り」「求められた役割を完璧に演じる」「良いことか悪いことかは(絶対に)判断しない」‥‥etc.etc.

その昔「テレビは情報の終末処理装置」だと書いたのは、いとうせいこうさんだったと記憶するが、確かに。

口約束はするけど、すべて放置。すべて反古。

だって、そもそもから「放ㇾ送」=「送り放つ」なんだから無責任なのは当たり前。行儀の悪さは生来の性。作者の小川さんはきっとそのことをよく知っているのだろう。

終盤で主人公 三島玲央(競技クイズプレイヤー)にこう語らせて、対戦相手 本庄絆(テレビクイズ番組 覇者)を諫めている。タイトルに込めた含意も明かされる。

僕はクイズの内側からクイズのことを見ている。‥‥(中略)‥‥ でも、外側から見たら違うのだろう。‥‥(中略)‥‥ 僕はクイズが好きなだけのオタクだ。自分のために、ただひたすら正解を積みあげる。誰かのために――視聴者のためにクイズをすることなんてできない。

新聞、ラジオ、映画、テレビ、ネット、SNS諸々、‥メディアの「現在地」に関心のある人、人生の中で何かにハマって溺れたことのある方(オタク?)にはおススメする。(それにしても、日本の小説世界の 直木賞芥川賞 傾向は止まらないようだ。うらやましい。日本の映画は相変わらず意欲作・実験作・異色作・良心作に甘く、ただ面白いだけの娯楽作にはなかなかお目にかからなくなっちゃって久しいのに‥おっと、また、ロートルの繰り言が始まった。愚痴っぽくていけねぇな。馬脚が出ちゃった、お里が知れる。イケない、イケてない。)