2ペンスの希望

映画言論活動中です

「われわれは終わった後を生きている」という気分

映画がお好きな大学の先生やアーティストはゴマンといる。そういった先生方・芸術家諸氏の映画にまつわる本もゴマンと出ている。きっと部数が読めてそこそこ売れる目算が立つのだろう。 『ドライブ・マイ・カー』論【2023.4.10.慶応義塾大学出版会 刊】 残念…

「そっちにいかないで」

『青山真治アンフィニッシュドワークス』【2023.3.30. 樋口泰人+松村正人=編 河出書房新社 刊】を読んだ。 正直 青山真治の映画はあまり感心したことがない。肌が合わなかった。ただ、蓮實学校卒業生の中では早めの売れっ子だったことは承知している。後進…

過去に未来が透けて見える

仔細あって、大昔友人が書いた本『にほんのうた 戦後歌謡曲史』【北中正和 1995.9.1.新潮文庫】を引っ張りだして再読した。 「あとがき」の文章なんてすっかり忘れていたけれど、四半世紀ぶりに読み返したら、いたく胸に沁みた。断りなしに引用してみる。い…

斎藤環:映画機能主義者

斎藤環の『映画のまなざし転移』【2023.2.22. 青土社 刊】を読んだ。『キネマ旬報』誌に十年以上にわたって隔号連載した記事を中心にまとめたものだ。 前回の太田和彦とは180度違うがこれまた年季の入った映画愛好家である。本業は(ご承知のことだろうが)…

太田和彦『映画、幸福への招待』

太田和彦さんの『映画、幸福への招待』【2023.2.10. 晶文社 刊】を読んだ。 居酒屋探訪でつとに有名だが、無類の映画好きだとは初めて知った(面目ない)。管理人より2年先輩、映画体験はどっぷり重なる。懐かしい名前が続々ゴロゴロ出てくる。 帯には、「…

立ち位置

先回は本『「私のはなし 部落のはなし」の話』の本筋とは別の端っこ どうでもよい無駄口 馬鹿話 をした。今日は 本線の話。 著者の満若勇咲さん 36歳(2023年4月現在) の本業は、TVドキュメンタリーの撮影だ。 撮影の仕事を始めて、ドキュメンタリーの撮影で…

「お前らちゃんと下積みしろよ。‥」

満若勇咲さんの本『「私のはなし 部落のはなし」の話』【2023.2.25. 中央公論新社 刊】を読んでいる。 装幀:内澤旬子 企画・編集協力:朝山実 2010年劇場公開未遂第一作映画『にくのひと』に次ぐ第二作映画『私のはなし 部落のはなし』の制作過程=自分史・…

「手あたり次第」が一番

きっと芸達者な人なんだろうなぁと思いながら、遠ざけてきた町田康さんの新書『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』【2022.8.10. NHK出版新書】を読んだ。NHK文化センター青山教室でのトークを元にした本だ。 「自分語りはみっともなくって気恥ず…

技術vs人間❹ Bokeh

「技術は進化し、人間は劣化した。」さらに続ける。 「Bokeh」という英語をご存じだろうか? 発音はそのまま boke:bóukə:bɒkɛつまり「ボケ」、「ピントが合っていなくてぼやけていること」を意味する写真用語だ。今では日本語由来の世界共通語として定着し、…

技術vs人間➌ 視野狭窄

「技術は進化し、人間は劣化した。」も少し続ける。 「視野狭窄」:もとは「視野が縁からや不規則に欠けて狭くなる状態を示す医学用語」だが、「思いこみなどから知識や思考の幅が狭くなる比喩表現」として使われることも少なくない。 興味深いのは「視野が…

技術vs人間❷ 被写界深度

「技術は進化し、人間は劣化した。」続ける。 「被写界深度」という言葉がある。 ピントが合っているように見える範囲のことだ。 「浅い」とピントの幅は狭く、「深い」と広い範囲にピントが合い、画像はボケずクッキリ鮮明になる。ポイントは三つ、被写界深…

技術vs人間❶ 解像度

「技術は進化し、人間は劣化した。」そんな思いがぬぐえない。 (原因は知らない。資本主義が行くところまで行って、それでもとどまるところを知らずに行き詰ってしまった結果なのか、そのあげく、人間がどんどん多忙になって貧乏になってしまったせいなのか…

使いたくない言葉

ふだん使わない・使いたくない言葉がある。「映像的」「映像美」‥‥なんだかいかがわしくてイヤだ。なにやらゆかしく価値ありげで、いかにも良いことのように称賛している誉め言葉のようだけれど、これって「ほとんど何も言ってない」じゃん、ずっとそう思っ…

残るかどうかは‥

今日は本の宣伝。大学時代の友人の新刊本。北中正和『ボブ・デュラン』【2023.2.20 新潮新書 】 前作は『ビートルズ』だったが、今回は『ボブ・デュラン』ともにビッグネーム、本もごまんと出ている。あえてそこに加える・加わる勇気。 帯は「本質がわかる決…

筒井康隆の映画本

少し前に読んだ筒井vs.蓮實の対談本の流れで、筒井の新書『活劇映画と家族』【2021.7.10. 講談社現代新書2626 】を読んだ。 昔の洋画を浴びるように観て育った筒井ならではの映画観が小気味よい。 のっけから「正確には「活劇映画における疑似家族」というタ…

Louis Wain Cats,Cats,Cats!

今日は全くの備忘録。 ペットとしての犬や猫の人気は凄い。写真やイラストも山のように出ている。なかで最近知った猫の画家 Louis Wainの画。猫好きの人々には古くから知られた有名人だそうだ。 フラクタル図形で描かれたカオス。猫を見続けてきた画家の到達…

『嫌われた監督』:編集者

さらに、『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか 』から。 第53回大宅壮一ノンフィクション賞、第44回講談社本田靖春ノンフィクション賞、第21回新潮ドキュメント賞など、名だたる賞を幾つも受賞し、ベストセラーになった。ライターの鈴木忠平は一躍…

『嫌われた監督』:船

続けて、鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか 』からもう一つ。 「オレ流」という言葉が独り歩きし、毀誉褒貶相半ば、変人とか異端児とも云われる落合博満の光と影のドキュメント。スコブル面白い本だった。 競技スポーツとしてのプロ野…

『嫌われた監督』:WBC

このところ新聞やテレビラジオで、WBCが盛り上がっている。悪いとはいわない。管理人もテレビ桟敷観戦を愉しむつもりだ。けど、正直な話、何だかなぁ~、の気持ちも湧く。「日の丸を背負って戦う」「日本のために精一杯頑張って貰いたい」「優勝期待」って、…

『笑い神 M-1 その純情と狂気』

溜まっていた一冊=中村計さんのノンフィクション『笑い神 M-1 その純情と狂気』【2022.11.28. 文藝春秋 刊】を一気読みした。2021年秋から2022年春にかけての「週刊文春」連載 全22回も愛読していた。 漫才師「笑い飯」を中心に、2001年から2010年まで開催…

本『犬笑楼vs.偽伯爵』

しばらくツンドク本だった『犬笑楼vs.偽伯爵』【2022.12.21.新潮社 刊】を読了。 オモテ表紙は、グルーチョ&チコ・マルクス兄弟の映画『我輩はカモである』(1933) のワンシーン。 ウラ表紙では、ネクタイ姿でオシャレに着飾った二人が足を組み、紫煙をくゆ…

「思考は感情的なものです。思考は集団的なものです。」

今日は備忘録。 1993年大阪生まれの小峰ひずみさんの言葉。 第六五回群像新人評論賞 優秀作「平成転向論 鷲田清一をめぐって」受賞の言葉より 部分 抜粋。 「思考は感情的なものです。感情は集団的なものです。思考は愛憎に導かれるのだと、私は思います。 …

錯覚 小鷹研理

地上波TVでも何度も紹介されているので、ご存知の方も多かろうが、備忘録的に貼っておく。名古屋市立大学・芸術工学研究科 小鷹研理准教授 研究室。 INVISIBLE SLIME HAND 2021 www.youtube.com XRAY SCOPE www.youtube.com 大学の紹介ページには、こうある…

腐葉土 ☆★ 武器庫

出来損ないの新作を追いかけるのはほどほどにして、山ほどある古今東西の旧作映画に目を向けてみたらどうだろうか。もちろん、今となってはお粗末・粗雑で付き合いかねる賞味期限切れ映画もあることだろう。公開当時は人気を博したけれどメッキが剥げてチャ…

ZAZIE 《 J’ai vieilli. 》「年を取ったわ」

ルイ・マル作『地下鉄のザジ Zazie dans le métro 』( 1960)を久しぶりに見直した。 原作は、あのレイモン・クノー。そう 一筋縄ではいかない曲者 前衛小説家。その昔、かの生田耕作先生の日本語訳で読んだ。 有名だった決めゼリフ《 mon cul 》⇒「けつ喰ら…

すべて売り物

近所の映画館で『秘密の森の、その向こう』というフランス映画を観た。前作が印象的だった女性監督に惹かれて、いそいそ出掛けた。評判にたがわず丁寧に作られた良品だった。地元の名画座の平日昼間 お客さんは 結構 入っていた。結構なことだ。 チラシはコ…

札幌映像機材博物館その2

YouTubeに昨日の『札幌映像機材博物館』のこんなページを見つけたので、貼ってみる。 www.youtube.com

札幌映像機材博物館その1

「札幌映像機材博物館」は、私設・個人運営、「入場無料の」「日本で唯一の」『映像機材の総合博物館』だ。 もともとは登別にあったが2022年6月に札幌に引越しした。35㎜のフィルムカメラから16㎜、8mm‥2吋1吋のアナログVTRやシブサン(3/4吋Uマチックカセ…

夏葉社 島田潤一郎さんの本:続き

島田さんのこんな言葉にも打たれた。撃たれた。 「経験からぼくは知っている。音楽がつまらなくなったという人たちは、音楽をもう聴いていない人たちなのである。その意味で、本が読まれなくなったという人たちは、もう本を読んでいない人たちであり、本屋さ…

夏葉社 島田潤一郎さんの本

島田潤一郎さんの本『あしたから出版社』【2014年6月 晶文社刊の単行本を2022年6月にちくま文庫化】を読んだ。島田さんは2009年9月 33歳の時に東京吉祥寺のマンションを借り、資本金300万円で株式会社夏葉社というひとり出版社を始めた。 青筋立てて肩をいか…